朝のであい
寒さも和らぎ、穏やかな朝を迎えています。薄青の空の山際が白んできて太陽が顔を出そうとしています。すぐ上には刷毛で描いたような雲が青紫に佇んでいます。頭上には真綿色のひつじ雲がおぼろげに色づいています。空高く鳥のさえずりも聞こえてきます。
この瞬間の景色を切り取りたいと、学校の見えるいつもの土手のポイントで自転車を停めてシャッターを切っていました。すると、すぐ側に自転車を停めてこちらを見ている女性がにっこり微笑んで話しかけてきました。
「鳥ですか。」
「いいえ、いつも通るこの道からの景色が好きで、今朝も美しくて思わず撮っていました。」
女性は目を細めて、私の顔を見ました。
「そうなんですか。この場所はちょうどあの丸い建物が見えていいですものね。」
女性も毎日この道を通ってられるようです。
「いろんな鳥もたくさん来ますしね。」
「そうですね。」
スマホをポケットに入れて自転車に戻り、一緒に学校の方へ向かいました。この道を通うようになってもうすぐ1年になりますが、本当にいろんな野鳥がやってきて毎日のように立派なカメラを持った方々がいらっしゃいます。
「今はそこの橋を渡った所にベニマシコが来ていますよ。」
「そうですか。」
そういえば数日前から、学校のすぐ横の橋を渡った枯草の茂みにレンズを向けている方がいらっしゃるのを思い出しました。
「ベニマシコってどんな鳥なんだろう。」
そう思いながら、謎が一つ解けたことに自転車で並走している女性に感謝の気持ちが湧いてきました。
「実はここの校長なんです。いつもこの道を通るのが楽しみで…。」
「そうなんですか。私十年ほど前にここで琴を教えてもらっていたんです。三好先生に教えていただいて、演奏も生徒さんと一緒にしたり、とても楽しくさせてもらっていました。あの琴は清友高校から引き継いだものと聞いていました。」
「三好先生は今も教えに来てもらっていますよ。生徒も毎年授業で琴を習っていますよ。」
そう言うと、女性はとても懐かしく嬉しそうにされていました。
「琴はやめてしまったのですが、今はギターをしています。音楽が好きでしてね。」
「よろしいですね。また、いつでも来てくださいね。ありがとうございます。」
私が土手の道端に自転車を停めた時から始まりました。そして通りがかった女性が私に気づき、声をかけられたのです。僅か5分ほどの出来事ですが、こんなふとした出合いから新たなつながりができる事が嬉しく、感謝の気持ちで満たされました。本校に想いを持たれている方は、この地域にたくさんいらっしゃるのだと改めて思いました。
ベニマシコはスズメの仲間で雄の冬羽は胸・腹・目先が紅赤色に染まり小さくて美しい鳥のようです。