3年生現代文B
継続中であった土砂災害警戒警報も解除されてひと安心です。しかし、台風21号による各地の被害は甚大で、亡くなられた方やご家族のことを思うと沈痛で無念でなりません。毎年、このような被害を繰り返す国に住む一人として、災害に強い町づくりが喫緊の課題であることを痛切に感じているところです。
今日は1時間めにM先生の3年生現代文Bの授業を見学しました。辻 邦生の小説「風の琴 二十四の絵の物語」から「怖れ」の一節が題材です。話は、ヴィネツィアの運河を見下ろす豪華なアトリエに始まります。この世の栄誉も地位も財産も手に入れた老人のもとへ黒衣の男がやってきます。どうやら男は老人を黄泉の国へ連れて行こうとしているようです。老人は男が来るたびに、行く必要など全くないと、男を言いくるめて追い払ってきたのです。しかし、最後は…。
老人の「死」に対する怖れの細やかな心の描写が、読者を老人の瞳の中の闇へと引き込んでいきます。授業の冒頭でM先生はおっしゃいました。
「小説を読むときは、全体をぼんやり読むことも大事だが、必ずどこかに人物の心情が読み取れる言葉がきちんと書いてある。『ここにこう書いてあるからこうなんだ』ときちっと読み取っていくことが実は大事です。」
全くそのとおりだと思いました。だから言葉の一つひとつが、読者にいろいろと想像させる余地を残してくれるのだと感じました。
老人の男への言葉の中に、「お前は、わしの幻想から生まれた、影の存在でしかない。」という部分があります。さて、老人はいつからこの影を見るようになったのでしょう。読書は楽しいです。